リレーショートショート
1番走者 中村富由彦
2番走者 谷中昭広
3番走者 大竹良治
林立するデパート群の間から、ますます黒さを増した夕立ち雲にすっかり一面を覆われてしまった空が、わずかに姿を覗かせている。心持ち急ぎ足になった勤め人達の足音に混って、どこからか遠雷の音が響いてくる。客足は急速に遠のき、僕はポケットにつめこんだペアバックを指先で弄びながら、持て余し気味にそんな空を見上げている。
(ザッと来そうだな)
こんな時は、目の前を過ぎて行く人波の様子が、何よりの天気予報である。気の早い人は、もう片手に傘を握りしめている。――思っている間に、ポツリポツリと大粒の水滴が落ちて来た。それを見つめていたものだから、僕は目の前のお客さんに気付かなかった。
「おい、ねえちゃん、ぶどうくれよ。」
「はい、いらっしゃい。」
僕は反射的に愛想笑いを浮べたが、(おい、ねえちゃん)という言葉は、しっかりと耳に入れていた。
「いくらだよ。」
「キロ四五〇円です。」
そこに書いてあるだろ。。――僕は心の中で毒舌をついた。
(バトンタッチ)
「よし、じゃ10キロよこせ」男の客はコートのポケットから銃を抜き取り、僕の心臓のあたりにつきつけた。
「ま、待ってください。ぶどうならいくらでもさし上げます。どうか命だけはたすけてください」ともすれば震え声になるのを、僕は必死でこらえ懸命に哀願した。
「だめだ! 俺は今日むしゃくしゃしてるんだ。お前を殺して、ぶどうを10キロいただくぜ。どうだ、まいったか」男は勝ちほこったようにすごんでみせた。
(もうだめだ……)僕は思った。
そのころ、中目黒の大善ではA大の某クラブとB大の某研究会が合同コンパのまっさい中だった。誰かが急に立ち上がると、ノドをかきむしりながら、血を吐いてたおれた。毒殺だ。――殺人事件だ。
ところが一方で、西川口で焼肉パーティをひらいていた学生が何物かにナイフをつきたてられ殺された。
刺殺だ。――殺人事件だ。
この二つの殺人事件のつながりは、いったい何なのか? そして銃をつきつけられた僕の運命は? 事件の真相をあばくため、名探偵・シロゴトヒは単身捜査にのりだした。
(バトンタッチ)
とここで、大竹は解決篇を書くことが出来ず、明智探偵の生れ変わりと言われる天才、桜井少年が、パッと見事にこの難事件を解決してみせるのである。
「シロゴトヒさん、まだこの事件の真相がわからないのですか?」
「なに、桜井少年、もう君はこの難事件を解決したのかね。なんて、君はえらいんだ。」
「まず、この事件に共通する要素をあげてみなければなりませんよ。まず、八百屋の“僕”も、大善で飲んでいて毒殺された人間も、西川口で殺された学生も、すべて、A大の推理研の人間であることに注目しなければなりません。」「なるほど」とシロゴトヒ探偵。「しかし、よく考えてみると分ることですが、八百屋の“僕”以外は、人にうらみを買うような人間ではありません。すなわち、この二つの殺人は偽装殺人なのです。つまり、犯人が本当に殺したいのは、八百屋の“僕”以外ではありません。では、“僕”はどのようなうらみを買ったのでしょうか。実は彼は推理研の女子会員アンケートで第一位になったのです。そこで、それをねたんだ推理研の男子会員が、偽装殺人を行なって、“僕”を殺そうとしたのです。
すなわち、犯人はこれを読んでいるあなたです END