出題年:2005年
出題校:東京大学
問題文
近代以降のヨーロッパでは主権国家が誕生し,民主主義が成長した反面,各地で戦争が多発するという一見矛盾した傾向が見られた。それは,国内社会の民主化が国民意識の高揚をもたらし,対外戦争を支える国内的基盤を強化したためであった。他方,国際法を制定したり,国際機関を設立することによって戦争の勃発を防ぐ努力もなされた。
このように戦争を助長したり,あるいは戦争を抑制したりする傾向が,三十年戦争,フランス革命戦争,第一次世界大戦という3つの時期にどのように現れたのかについて,解答欄(イ)に17行以内で説明しなさい。その際に,以下の8つの語句を必ず一度は用い,その語句の部分に下線を付しなさい。
ウェストファリア条約 国際連盟 十四ヵ条 『戦争と平和の法』
総力戦 徴兵制 ナショナリズム 平和に関する布告
解答例
三十年戦争は国益を追求する主権国家間の国際戦争となり,傭兵による常備軍によって戦禍が拡大した。グロティウスは『戦争と平和の法』で国際法の必要を唱え,戦争を終結させたウェストファリア条約は,国際法に基づく主権国家体制を確立し,主権の不可侵を確認することで戦争を抑制しようとした。フランス革命戦争では国民を統合する国民国家形成に先行したフランスが,徴兵制による国民軍で一時ヨーロッパを席巻した。各国は反仏ナショナリズムの高揚を背景に対抗したため,戦争は君主の戦争から国民の戦争となって規模が拡大した。戦後のウィーン体制は正統主義を原則としてナショナリズムを抑制し,四国同盟を組織して勢力均衡による平和維持につとめた。しかし,ウィーン体制崩壊後は各国は国民国家建設を指向し,初等教育などを通じてナショナリズムを育成し,帝国主義の対立を激化させた。そのため第一次世界大戦は広範な国民を動員する総力戦となって未曾有の損害をもたらした。ロシア革命で成立したソヴィエト政権は,国際的な労働者の連帯を説く社会主義を背景に平和に関する布告を発表し,アメリカは十四ヵ条の原則で主権国家間の協調による平和機関を提唱し,国際連盟に結実した。