出題年:00年
出題校:長崎大
問題文
ナショナリズム(Nationalism)という言葉は,国民主義,民族主義,国家主義などの訳語で多様に用いられる。19世紀以降現在までのナショナリズムの展開について,言葉の意味をたどりながら,500字程度で論述せよ。
解答例
国民主義は社会契約説に基づき,個人が国民として国家に直結する思想で,初期には国家理念を共有するものが国民とされ,必ずしも民族に限定されなかったが,ナポレオン軍が各地を席巻し,国民国家の優位性が示される中で,フィヒテが「ドイツ国民に告ぐ」の講演を行い,ドイツの国民国家の基盤を言語と血統を共有するドイツ民族に求めると,一つの民族で一つの国家を形成すべきという民族主義が主流となり,一方で反ユダヤ主義など少数民族問題も発生した。また,イタリアとドイツでは既成の君主国を中心に統一が進んだため,個人より国家を重視する国家主義の傾向が現れた。第一次世界大戦で民族自決の原則が示され,列強の植民地でも抵抗運動が民族主義に基づき組織されたが,それまで共存していた諸集団が自らを民族として自覚し,対立を深める現象も起こった。また,民族分布を無視して列強による国境が引かれた地域では民族対立が激化した。世界恐慌を機に極端な国家主義を主張する全体主義が台頭し,第二次世界大戦を引き起こしたが,二つの世界大戦で国民国家間の総力戦による深甚な被害を受けた西欧では,国民国家を見直すヨーロッパ統合の動きが進んだ。(494字)