B 従来多数の人の心の中にはただ肉・物質・自然のみが生きていた。新しき教育は,多数の者,いな能うべくんはすべての者の中に,精神のみが生きて彼らを動かすようにしようとするのである。余がさきによく整いたる国家の唯一の基礎と呼べる堅実なる精神を,一般の人心の中に生み出そうとするのである。
かくの如き教育によれば,吾人が劈頭に前提したる目的,吾人の講演の出発点たる目的が,疑いもなく達成せられる。かくして生み出されるべき精神は,最高なる祖国愛,即ち,自己の現世の生命を永遠なるものとし,祖国の生命をこの永遠性を荷なうものとする把握を直接自己の中に導き入れる。そしてこの精神がドイツ人の間にうち建てられる場合は,ドイツ人の祖国に対する愛を自己の必然なる構成部分として直接に自己の中に導き入れるのである。そしてこの愛から,勇敢なる護国者,及び穏和なる遵法の公民が自然の結果として生ずるのである。……
まず,これらの著作が書かれた歴史的背景を説明したのちに,テキストA・Bに表明されている,フランスとドイツのナショナリズムの特徴について,以下の語句を用いて説明しなさい。
階級闘争 革命 国家主義 三部会
ティルジット条約 ナポレオン 民主主義 民族の精神
解答例
シェイエスの著は,特権階級への課税問題から
三部会の召集が決定された時に出され,特権階級に対する第三階級の
階級闘争としての
革命を主張するものであった。ここでは共通の法を共有するものを国民とし,国民は民族に限定されていない。また,同じ立法機関によって代表される共同生活体を国民と定義することで,主権在民の
民主主義が主張されている。民族主義に拠らず民主主義を前提とするのがフランスのナショナリズムの特徴である。一方フィヒテの著作は,プロイセンが
ナポレオン軍に敗北してベルリンを占領され,
ティルジット条約で領土が半減する危機の状況で著され,ドイツの民族国家の建設を訴えるものであった。ここでは国家建設の基礎がドイツ人の
民族の精神と祖国愛に求められ,国家と個人の精神的結合が強調されている。ドイツのナショナリズムは民族主義に依拠し,個人よりも国家を重視する
国家主義の傾向を帯びることが特徴である。(393字)
参考: