出題年:00年
出題校:東京大学
問題文
大航海時代以降、アジアに関する詳しい情報がヨーロッパにもたらされると、特に18世紀フランスの知識人たちの間では、東方の大国である中国に対する関心が高まった。以下に示すように、中国の思想や社会制度に対する彼らの評価は、称賛もあり批判もあり、様々だった。彼らは中国を鏡として自国の問題点を認識したのであり、中国評価は彼らの社会思想と深く結びついている。
儒教は実に称賛に価する。儒教には迷信もないし、愚劣な伝説もない。また道理や自然を侮辱する教理もない。(略)四千年来、中国の識者は、最も単純な信仰を最善のものと考えてきた。(ヴォルテール)
ヨーロッパ諸国の政府においては一つの階級が存在していて、彼らこそが、生まれながらに、自身の道徳的資質とは無関係に優越した地位をもっているのだ。(略)ヨーロッパでは、凡庸な宰相、無知な役人、無能な将軍がこのような制度のおかげで多く存在しているが、中国ではこのような制度は決して生まれなかった。この国には世襲的貴族身分が全く存在しない。(レーナル)
共和国においては徳が必要であり、君主国においては名誉が必要であるように、専制政体の国においては「恐怖」が必要である。(略)中国は専制国家であり、その原理は恐怖である。(モンテスキュー)
これらの知識人がこのような議論をするに至った18世紀の時代背景、とりわけフランスと中国の状況にふれながら、彼らの思想のもつ歴史的意義について、解答欄(イ)を用いて15行以内で述べよ。なお、以下に示した語句を一度は用い、使用した場所には必ず下線を付せ。
イエズス会 ナント勅令廃止 科挙 フランス革命 啓蒙 身分制度 絶対王政 文字の獄
解答例
18世紀のフランスでは旧教理念を背景に国王を中心とした絶対王政がしかれ,貴族と聖職者を特権身分とする身分制度が維持されていた。しかしルイ14世晩年からの戦争や宮廷の浪費によって財政は破綻し,旧体制の矛盾は拡大していた。こうした時,啓蒙思想家たちは明末清初の中国でカトリック布教を行ったイエズス会の宣教師がもたらした中国情報を参照しつつ,旧体制への批判を展開した。彼らは清朝でも継承された儒教の合理精神を賞賛することで,ナント勅令廃止後強化されたカトリック教会の思想統制や迷妄を批判した。また身分にとらわれない人材登用制度であり,漢民族への懐柔策として清朝でも盛んに行われた科挙を賞賛し,フランスの身分秩序に基づく人材登用を批判した。一方では征服王朝として文字の獄などの思想弾圧が行われた清を専制体制と批判することで,フランス絶対王政の専制を批判した。これらの思想はブルボン朝下の旧体制への総合的な批判となり,それを打倒しようとするフランス革命を思想的に準備し,近代市民社会の原理を準備した。
*この問題では、リード文と史料と指定語句から、いかにして出題者の意図を読み取り、それを再構築するかがポイントとなる。