2005年総括?
高円寺エンターティメント研究所活動再開です。まるまる一年ぶりですが、この一年間まるっきり何もしてなかったわけではありませんので、2005年を振り返ってみます。まあ、いまさらですが……。
印象に残ったコミック
『』(イースト・プレス)
著者最大のヒット作、になってしまいましたね。巻末のとり・みきとの対談も素晴らしい。
失踪という幻想を夢みるひとたち(たとえば、仕事や家庭に疲れた中年のサラリーマンとか)が、この作品によって現実の失踪生活の厳しさを知ってしまい、心理的な逃げ場を失っていないだろうかと心配するのは考えすぎ?
失踪生活がいかに大変だったかというマンガの下書きに、家ではもっと悲惨でしたと記した吾妻夫人に10点満点!
評点……7.0
『』(講談社)
2005年最大の発見、と言ってしまっては失礼か。
思わせぶりな伏線があるだけ(結城くんの休学の理由とか樹教授の計画とか、その他いろいろ)で、なかなか話が進展していかないのが最大の欠点だが、ヒッチコックいうところのマクガフィン(※ストーリーを動かすための道具立てのことで、それ自体に特に意味はない)だとすれば、別にまあいいかって感じですかね。まだ見ぬ、というか絶対見ることのない、菌たちの世界を堪能してくださいな。
同じ著者の短編集『』(講談社)もオススメ。とくに第一話は良いですよ。
評点……6.5
『』(太田出版)
女の子が女の子を好きになるというおはなし。ただ一部で流行っている「百合もの」とは一線を画すし、『マリア様がみてる』(集英社)よりもリアル。
読んでるこちらが気恥ずかしくなるくらい、少女たちのあやうさと清々しさが同居している。おとうさんとしては、無防備なこの娘さんたちの将来が心配でなりません。
評点……6.0
『』竹田エリ(集英社)
竹田エリ大復活。
ヒトとそれ以外の動物が順番に世代交代するという設定。自分はヒトだけど、親が羊だったりパンダだったり、人間夫婦の子供がアメフラシだったりする。
基本的に、親の動物たちのふるまいにヒトのこどもたちが迷惑する、というか、動物のボケにヒトがつっこむパターン。
治一くんのおとうさんもいいけど、個人的には成田先生に一票。
評点……6.5
『』(毎日新聞社)
サイバラは幼稚園や小学校とも闘っているのだ。
全国誌の朝刊連載(週一だけど)ということで多少遠慮があるのかとも思われるのだが、この作品のおかげで著者もメジャー作家の仲間入りか?
育てていけばいくほど育児の目標が低くなる、という著者の諦観に共感を覚える親は多いのではないか。子供は死ななきゃいいのだそうだ。
『』(竹書房)以来の代表作になる可能性大。
評点……6.5
『』(一迅社)
美川べるのはの後継者たりえるか?
ジェット・コースター的なハイテンション・どたばたギャグはあーみんテイストなのだが、メイン・キャラの所長以外のヘンタイ度がいまいち。
新雑誌「REX」で始まった連載はノリが悪いというか、ギア・チェンジがうまくできない車のようだったので、もっと覚悟を決めて突き抜けていってほしい。
頑張れ。評点……5.5
『』(エンターブレイン)
エマは遠くアメリカへ行ってしまいました。二人の障害は大きくなるばかり。やるなら、ここまで徹底してやらないといけないんだねえ。マンガ家は大変だ。
『エマ』って、なんか雰囲気が70年代の少女マンガっぽくないですか? 『キャンディ・キャンディ』とか『フォンティーヌ』とか。気のせいですかね?
評点……6.0
『』(講談社)
妖怪ハンター・シリーズ。
今回は、名付けられない“モノ”をめぐる物語。名付けてしまった者たちは不幸に遭う。
名付けられないものをどのように語るか、語り得ないものを語り得るのか、というのは西洋哲学の問題だが(ニュー・アカデミズムのときもはやったかな?)、ヴィドゲンシュタイン先生のいうように(たぶん)、語ることのできないものを語ってはいけないのでしょうか?
評点……6.5
『』(日本文芸社)
日本一のパロディ・マンガ家?
絵は、手塚治虫、本宮ひろし、永井豪などのパロディ。タイトルは、もちろん弘兼センセ『島耕作』からのいただき。内容は、見事なくらいに下らない。それがいいんだけどね。
評点……6.0
『』(角川書店)
日本にメタ文化はあっても、パロディ文化はないのではないかと疑っている。パロディが存在するのには確固としたオリジナルへの批評性がなければならないが、残念ながらパロディを自称する殆どが、その精神に欠けている。日本における著作権や知的所有権に関する意識の低さを思えば致し方ないことか(まあ、ミッキーとかミニーのようにうるさすぎるのも迷惑だけどね)。
しかしながら、喜ばしいことに、例外はいつも存在する。
このマンガはいわゆるファースト・ガンダムのパロディなのだが、ガンダムを知らなくても十分に楽しむことが出来る。アムロもさることながら、シャアのキャラ立ち具合は、いしいひさいちの「タブチくん」に匹敵するのではないか。
個人的には、2005年のベスト。いや、それはそれで、どうかと自省したりもするのだが……。
評点……7.0
『』/(集英社)
L死亡後、人気が急落。特に女性読者が離れてしまったらしい。死体は出ていないので、実は生きてた、なんて展開はないのか?
少年ジャンプでは、というよりも、いまの少年マンガでは希有な、悪人が(ライトのキャラクター設定忘れてた?)主役というマンガなので、いろいろと風当たりも強いと思うが、踏ん張ってほしい。
ときどき入る、死神のつっこみが好き。
今年、映画化だそうで。
評点……6.0
『』(小学館)
最終巻で、ああ久々にSFを読んだなあと感慨に耽ってしまった。
他人の夢にダイヴとか、無意識下の世界とか、若返りとか、心臓喰いとか、てんこ盛りですよね。あとで、もう一度まとめ読みだな。
ボーイズ・ラヴ流行時に『』(小学館)を描き、ライト・ノベルズ全盛期にこの作品を仕上げ、萩尾先生は常に挑発的です。
評点……6.0
『』(講談社)
ジャニーズ事務所とTV局の交渉がうまくいかず、ドラマ化が頓挫したのは知る人ぞ知る話。その代わりが『』(集英社)だったわけだ。
これといったメディア・ミックスをしているわけでもないのに(クラシックCDが何枚かでたが)、巻を重ねるごとに部数が増えていっているのは、現在のマンガ業界では驚異で あり奇跡でもある。
千秋とのだめは、室内でよりも路上とかの屋外での絡みが面白いな。
評点……6.5
『』(白泉社)
奇病で男子の生存者が1/4に減少したあとの江戸時代のお話。男の仕事を徐々に女が受け持つようになり、男は子種として生きているような世界。
将軍も三代家光までは男だったが、六代家宣は女で、大奥も、選りすぐりの美男子を集めた場所へと変わっている。女が考える美男子と男が考える美男子との間には、深くて暗い河が流れているが――男と女を入れ替えても同じように、深くて暗い河がある――とりあえずそれを棚上げしたところで、ボーイズ・ラヴというジャンルは成立している。それを問いつめることは、たとえばK−1の選手になぜ肘を使わないか、と問いただすことに似ている。使ってしまえば、それは、もう他のジャンルになってしまうのだ。べつに『大奥』はボーイズ・ラヴじゃないけどね。
評点……6.0
『』(小学館)
日本マンガ界三大直樹のひとり、唐沢直樹の傑作。
メタ・マンガの傑作「」シリーズ(エンターブレイン、講談社)と併読すると、より楽しめます。「カスミ伝」がマンガの表現技法をつきつめた作品だとすると、この作品はマンガの精神について描かれたものだ。いや、そこまで高尚なわけないか。
乳首たちのすけ先生のマンガ読みたいなあ。
評点……6.5
Jリーグ&プロ野球
どちらも2005年はものたりなかった。
まず、。
安定して強くないチーム(、など)と、力を安定して発揮できないチーム(、、)の優勝争い。混戦といえば聞こえはいいが、だらしないチーム同士の順位決定戦にすぎなかった。そんなシーズンを、盛り上がったなどと総括するのは自己欺瞞以外のなにものでもないぞ。
フロントがクラブをどうしたいのか分からなかったのJ2落ちは誰もが予想したとおり。は、これでやっと目先だけの再建を諦めるだろうか。は弛緩していたチームが益々ゆるんでしまったようだ。
2006年は、強いチームの優勝争いを期待する。
※『』木村元彦(集英社インターナショナル)については、大家さんが色々書いてくれていると思うので、ここでは簡単に。
というと、ユーゴ代表の監督としてよりも、シュトルム・グラーツ時代の印象が強い。チャンピオンズ・リーグにおいて、アウェイでは0−4とかでボロ負けするくせに、ホームでは逆に4−0とかでボロ勝ちする奇妙なチーム。特に有名な選手がいたわけでもないのに、その攻めっ気たっぷりの試合運びで、地元サポーターの絶大の支持を得、ベスト16まで進んだ。
市原の監督に就任した最初のミーティングで、選手たちの座っているテーブルを叩いていくエピソードは、ちょっと鼻白む感じがしたのだが、パルチザン・ベオグラードの監督を辞任する際に、選手たちが懸命にひきとめようとしたシーンには思わず泣いた。
本書の後半にインタビューが載っているジェフの通訳や、常に聞き耳を立ててその一言一句を逃すまいとするマスコミをあげるまでもなく、オシムは行く先々で多くのひとたちに多大な影響を及ぼしていく。それは、たぶん、本人の意図したことでも、希望したことでもなかったはずだ。意図せずして何事か成し遂げてしまうことを、僕たちは「運命」とか「宿命」とかいう言葉で語ってしまうことがあるが、オシムに対し、そのような軽い言葉を口にすることなど出来ない。
僕たちはスタジアムに足を運び、サッカーのある喜びを、オシムとともに味わい、理不尽で身勝手な連中を少しばかり呪ってやるのだ。
プロ野球。
今年も、パ・リーグのプレー・オフは盛り上がりましたが、やっぱりシーズン2位のチームが日本一になるというのは釈然としないな。アメリカのようにチーム数が多いと、そのへんのあやしさがうやむやになってしまうのだが、たかだか6チームのリーグで3チームのプレー・オフはないよな。
1リーグは最低8チーム(2リーグでは16チーム)で、それを4チーム×2地区にわける。各地区の1位がリーグ・チャンピオンシップを行ない、勝者が日本シリーズ出場というのはどうか?
でもの試合は面白かったな。ちょっと監督を持ち上げ過ぎの観が無きにしもあらずだったが……。100通りを超える打順とか、データ重視とかいうのであれば、ブルーウェイブ時代の(合掌。ご冥福をお祈りいたします)との比較が当然なされるべきだったと思うが、雑誌「ナンバー」において、仰木監督死去に関するコラムで触れられていたのは目にしたが、他の雑誌・新聞は知らんぷりだったのではないか? 誰かご存じの方はご連絡下さい。
2005年高円寺エンターティメント研究所大賞………『失踪日記』吾妻ひでお(イースト・プレス)
2005年高円寺エンターティメント研究所所長賞……(千葉ロッテマリーンズ)
といわけで、今年もよろしくお願いします。