ボシュエ(1627-1704)
フランスの司教・説教家で雄弁で知られた。ルイ14世に皇太子の家庭教師として招かれ、10年間その教育に従事。1680年の『聖書政治学』81年の『世界史論』で王権神授説を唱え、この学説の代表的思想家とみなされる。特に注目されるのは、彼がここで「主権」という言葉を、神から王国内の王権を授かった君主が、教皇や皇帝の許可を受けることなく、自由に戦争をする権利として構想していることである。皇帝や教皇といった中世ヨーロッパのキリスト教共同体を支えていた普遍的権威が没落し、各国が国王のもとに集権化して、主権国家が並立し、条約と国際法で関係を規定しあう主権国家体制は、イタリア戦争期に始まり、西欧では三十年戦争のウェストファリア条約によって確立したと考えられるが、それに理論的根拠を与えた王権神授説において主権がまずなによりも自由に主体的に戦争をする権利として構想されていたことは、主権国家が戦争マシーンとしての性格を強く帯びていたことを示唆する。実際に主権国家体制が発展していく時代であった近世は、なによりも絶え間ない戦争の時代であったのである。また、聖職者であったにもかかわらず、フランスの聖職者は、まず何よりも王権に従わなければならないとし、フランスの国家教会主義(ガリカニスム)を確立したことも重要である。