出題年:92年
出題校:一橋大学
問題文
西ローマ皇帝アウグストゥルスがゲルマン人傭兵隊長オドアケルに廃位されて以後,8世紀半ばに至るまで,旧ローマ帝国領だった地中海地域には民族の移動を含む大きな政治的変化が生じた。これらの変化を,次の三つの人名を用いて400字以内で説明せよ
ユスティニアヌス帝 ムハンマド(マホメット) カール=マルテル
解答例


西ローマ帝国滅亡後その領域にはゲルマン民族国家が分立したが,6世紀に東ローマ帝国のユスティニアヌス帝が地中海世界の回復を実現した。しかし,彼の死後その政治的統一は失われた。さらに7世紀にムハンマドが創始したイスラム教が地中海世界に進出し,エジプト・シリアを経てイベリア半島まで制圧すると,ゲルマン諸国は東ローマ帝国との交易を遮断されて経済的統一も失われ,内陸の荘園経済を基盤とする独自の世界を形成した。さらに聖像禁止令を機に東ローマ皇帝からの自立を模索したローマ教会が,カール=マルテルがトゥール=ポワティエ間の戦いで勝利し,イスラムの進出を阻止したフランク王国に着目して接近し,カロリング朝の成立を支援したことで,宗教的にも東ローマ帝国から分離していった。かくして地中海世界は,東ローマ帝国中心の東欧世界と,フランク王国を中心とする西欧世界と,イスラム世界の三つの文明圏に分裂していった。