ボッカチオ(1313-1375)
と同じくフィレンツェに生まれた人文主義者。黒死病<ペス卜>の流行を背景に著された『デカメロン<十日物語>』はイタリア語散文を確立するとともに、近代風刺小説の祖型とされ、高く評価されている。構成は、ペス卜を避けて集まった10人の人物が10日間、それぞれ一日一つ物語りをするというもので、全部で100話からなる。聖職者の好色なさま等を笑いのめす批判精神を交えて、生命力に充実した快括な登場人物が描かれ、ペス卜にうちのめされた人々を励まし、立ち直らせようとする作者の願いが、作品の背後からうかがわれる…と。ところでこの小説は“好色文学”の祖としても知られており、おませな中学生だった僕は、「世界文学の名作にかこつけて、Hな本をどうどうと読める」という期待に胸高鳴らせて、『デカメロン』を買ったことがある。実際にレジで金払う時にはけっして比喩ではなく心臓がドキドキして耳の中に心音がこだましてた。もちろん、あさはかな中学生の期待はぺージをめくっていくにつれ裏切られ、「何が好色文学だ」という怒りにかわっていくわけですが、いや思えば私も若かった。さて、『デカメロン』完成後、と知り合い親友となったボッカチオは、その影響もあって、ギリシア古典の研究などに手を染め、人文主義者として活躍。後には尊敬するダンテの『神曲』の注釈なども行った。ペトラルカの死の翌年、その後を追うように死亡。